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Ⅵ.パッシブハウス5つのポイント(その6)

パッシブハウス5つのポイント

5つのポイント最終回は、『換気は熱交換換気装置により行い、熱交換率は75%以上とする』です。

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パッシブハウスの様な高気密な建物には、機械換気が必ず必要に成ります。
その機械換気の際に、屋外の空気に熱を受け継がして、室内に給気するのが熱交換換気装置です。
パッシブハウスや無暖房住宅には、熱交換換気装置が装備されます。
その熱交換率が、75%以上の性能を持つ機種を、パッシブハウスには取り付ける様に決められています。


現状の日本での換気方式は、第三種換気方式による事が大半です。
この換気方式では、室内を機械排気で負圧状態にして、壁の給気口から外気をそのままの温度で室内に入れます。
その量は、建物の各室容積の1/2の量を、1時間に入れる様、建築基準法は定めています。
これだけの量の外気と、室内空気が入れ替わっては、折角暖房した室内温度が簡単に低下してしまいます。
また、外部からの騒音や汚染された空気が、壁の給気口の簡単なフィルターを通して、室内に入る状況は片手落ちの機械換気方式と言えます。


パッシブハウスの様に質の高い建物には、それ成りの換気設備が必要です。
公共の建物やオフイスビル、病院などではセントラル機械換気で換気をしています。
その機器には、質の高いフィルターが有り、外気はそれを介して室内に入ります。
また、室内の汚染空気は、随時屋外に機械排気される様に、コントロールされています。


この様な換気システムを戸建用にして、熱交換機能を付けた機器が熱交換換気装置です。
熱交換換気装置により、室内の適温空気を外部の新鮮空気に取り替える際に、熱だけを受け継ぐ様にします。
快適な温度に暖められた室内空気の温度を、新鮮な外気へ熱だけ移動させます。
各居室には、新鮮で室温に適した空気が供給される事に成ります。


パッシブハウスには、そうした熱の交換率が75%以上の装置を、装備する事が条件と成っています。
それ以下の熱交換率では、暖房設備の無いパッシブハウスや無暖房住宅では、室温の低下を招く事に成ります。
その限界値が、75%の熱交換率の数値です。
ドイツでは、熱交換換気措置は年々その性能を向上させ、現状では85%前後の機器が出ています。
しかし、その性能基準がドイツを始めとするEU圏でも、バラツキが有るようです。
この点は、今後の精査が必要と考えます。


そのバラツキ(性能値への疑問)を感じる理由は、以下の観点からです。
下の写真は、ドイツの各パッシブハウスに取り付けられていた熱交換換気装置です。
どの熱交換換気装置も、熱交換率が85%~90%以上と言われましたが、スウェーデンの換気会社REC社の熱交換換気装置を知る私にとっては、どの機器に対しても疑問の残る数値でした。
パッシブハウスを多く生み出しているドイツに於いても、熱交換換気装置に付いては、改善の余地を残していると感じました。


(1)タウンハウスタイプのパッシブハウス例。

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(ドイツのタウンハウス型のパッシブハウス)


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(タウンハウス型パッシブハウスの地下機械室。右奥下に有るのが熱交換換気装置)


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(タウンハウス型パッシブハウスの熱交換換気装置。フィルター部を引き抜いた状態)


この熱交換換気装置は、本体が樹脂性で出来ています。
ご覧の様に、フィルター部が2箇所有り、それを引き抜いて交換するようです。
過去のREC社での説明では、熱交換換気装置本体の気密性が重要と聞いています。
換気装置が可動する際、本体の気密が劣ると、計画されている各室への換気供給が適正に行われない状態が考えられます。
また不要な音の発生や、モーターへの過度な負担も考えられるからです。
この機械では、フィルターの操作性からして、本体の気密性が担保されている様には思えません。


(2)ドイツの1Lハウスの例

この1Lハウスは建物内に、暖房機がセットされている為、年間の暖房エネルギー量が10KWh/㎡・aとパッシブハウスの暖房消費量15KWh/㎡・aを下回っているが、パッシブハウスと呼ばずに1Lハウスと呼んでいます。


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(ドイツの1Lハウス)


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(1Lハウスの熱交換換気装置)


この1Lハウスの熱交換換気装置も、本体の大きさが小型で、熱交換部の大きさもその性能値を担保する程の寸法では有りません。
この換気装置は、暖房熱源から予め熱を供給する前提の、熱交換換気装置です。
暖房熱源で、熱交換前か後に、室内へ供給する空気は、暖められて給気されます。
従って、熱交換率が高い必要が無いからと推測されます。


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(熱交換換気装置の内部写真、グリーン部分が熱交換部です)


写真からも、熱交換部が大変小さい事が分かります。
熱交換換気装置は、物理的に熱交換部の大きさが、その熱交換を確保する物です。
如何に、仕組みを変えても、空気が熱を伝える部分が大きくなくては、その効果は薄れる事は明白です。
また、熱交換率を最高値で表示するか、平均値で表示しているのかでも違いが有ります。
スウェーデンのREC社では、稼動した平均値の84%を性能値として公表しています。
日本国内に出回る、熱交換換気装置の熱交換率にも、同じ理由で疑念を持つています。


(3)こちらは、3Lハウスです。
年間の暖房エネルギーが、住居1㎡当り3Lで済む建物です。

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(ドイツの3Lハウス)


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(3Lハウスの小屋裏にある、セントラル型熱交換換気装置)


上の写真は、3Lハウスの熱交換換気装置です。
9世帯分の換気を行う、セントラル型の熱交換換気装置です。
この熱交換装置は、熱を加える設備部分も有り大変大きな装置と成っていますが、熱交換をするには熱交換部分の大きさがその性能を担保する事が良く分かる写真です。(1/9にしても、大変大きなサイズです)


では、ドイツの機器と、スウェーデンのREC社の機械とを見比べて下さい。

下の写真が、スウェーデンREC社の熱交換換気装置です。
左が、本体のカバーを開けた写真です。
右が、換気システムの概念図です。


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(本体と比較すると、如何に熱交換部分(下部)が大きいのかが分かると思います)


また、左の写真で機械の前蓋が開いていますが、この扉の四方には気密性の高いゴムが廻されています。
この気密ゴムを良く見ると、冷蔵庫の扉に付いているゴムに似ています。
その上、扉はマグネットにより、ドアを閉めると引き寄せられる様に、しっかりと閉まります。
熱交換換気装置本体の、気密確保に対する違いが明らかに有ります。
REC社では、入居者の換気装置の開閉は、極力させない様に指導しています。
これは、オートマチックな機械なので、本体の扉を入居者が開閉する必要性が、殆ど無い事を意味しています。
REC社では、熱交換換気装置の扉は、施錠式にして入居者が開閉出来ない様に指導している程です。


更に、ダルムシュタッドの、ドイツ初のパッシブハウスに取り付けて有る熱交換換気装置は、スウェーデンのTemovex社(現在はREC社)の物です。


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(ダルムシュタッド、パッシブハウスで使用されている、RECtemovex社製の熱交換換気装置)


その後のパッシブハウスでも、データを見ると、Temovex社製(現在はREC社)の熱交換換気装置が使われています。

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(1997年建設のパッシブハウス)


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(このパッシブハウスでも、RECtemovex社製の熱交換換気装置が使われている)


現在では、ドイツ国内で造るパッシブハウスに使う熱交換換気装置を、スウェーデン製の機器にするわけにもいかず、自国の製品にしているようです。
しかし、ドイツ国内初のパッシブハウス建設時では、熱交換率を確保する機械は、世界中でスウェーデンのTemovex社(現在はREC社)しかなかったのです。
その機械を見付け採用した事が、ドイツのパッシブハウスが成功した理由でもあるのです。


パッシブハウス基準の、熱交換率75%以上は、ドイツでの大方の機械はクリアーするのでしょう。
しかし、75~80%更に80~85%と、数字的には僅かなアップですが、少ないエネルギーで成り立つパッシブハウスでは、その違いが僅かな暖房エネルギー量に大きく表れます。
以上の理由から、熱交換換気装置選びが、パッシブハウスの成否を占う事になると考えます。


パッシブハウス研究所(PHI)のSusanne Theumer(ズザネ トイマー)さんから、熱交換換気装置は熱交換率だけが重要なのでは無く、他にも機械が兼ね備えなければ成らない事や、付随設備工事にも要求される事柄の説明が有りました。


少し例を上げてみます。

①ダクト経路とダクトスペースの確保。
②ダクトの曲がりの数や長さによる空気の抵抗、移動、量の確保。
③ダクト内を空気が流れる時の音や機械からの音に対する対策。
④吸気、排気口の位置と距離、方位。
⑤管の径やジョイントの処理方法や固定方法。
⑥熱交換換気装置のフェイルター性能。
⑦機械やダクトのメンテナンス性。
⑧機械部品の耐用年数と修理に対する機材の調達年数。
⑨ダクトの保温は、100㎜以上必要でアルミ箔防湿処理の事。


その他にも、色々な対応やチェックが必要です。
また、ドイツやスウェーデンで手に入る、機材や部材が日本国内には無い物が多々有ります。
この点も、実際の設計・施工段階で問題解決しなければ成らない事です。


REC社では、『熱交換換気装置は、トータルな計画で進めなければ成功しない。設計計画段階から竣工、引渡し後の、メンテナンスまで当社はシステムを持って販売しています』と言っています。
正しく、パッシブハウス研究所(PHI)のSusanne Theumer(ズザネ トイマー)の説明と符号する言葉だと思います。


パッシブハウスの5つのポイント全てが、重要である事がお分かり頂けた事と思います。
この5つのポイントは、パッシブハウスだけの重要なポイントでは有りません。
どの様な建物でも、造る上で、この5ポイントの1つが欠けても、トータル性能を発揮出来ません。
5つのポイントが、お互いの性能を確保しその相乗効果で、パッシブハウスの様な性能を発揮する事が出来るのです。
また、ドイツやスウェーデンと、日本の気象条件や法律等の違いが有ります。
全てが、ドイツやスウェーデンと同等の処置や対処で、パッシブハウスが造れるわけでは有りません。
日本の諸条件に合うように、私達建築士が考えて取り組まなくては成りません。

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パッシブハウス・無暖房住宅・外断熱の今川建築設計監理事務所: 2009年04月27日|ページの 先頭へ|