これは、建築士会東京のCPD用の掲載文です。
世界オイルショックの後の1976年に、OECDの下部機構、IEAから日本は勧告を受けています。
内容は、『日本は省エネルギー政策に積極的でない、住宅の断熱について真剣に考えるべきである』とあります。
1976年6月7日から6月22日までの2週間、大規模なヨーロッパ住宅事情調査団が渡欧しています。
その結果は、『スウェーデンの様な寒い国では問題であっても、我が国の様な比較的温暖な国では問題では無い』と結論付けたと有ります。
また、『スウェーデンのエネルギー対策は、住宅の省エネルギーが本命であり、節約志向である。
我が国のエネルギー対策は、エネルギー供給源を太陽熱などに求める(サンシャイン計画)で有った』とも書かれています。
正しく、この時期から日本の有るべき姿を、逸脱した感が有ります。
この後に出される省エネ基準も、方向性を誤った数値基準に終始する事に成るのです。
写真左は、スウェーデンのルンド大学、建築物理学の権威、アーネ・エルムロート博士です。
ルンド大学でのレクチュアでは、スウェーデンの年度別の、断熱材厚さの説明を受けました。
右がその写真ですが、天井断熱厚さは、1970年(昭和45年)では100㎜、1980年(昭和55年)220㎜、1990年(平成2年)500㎜と建築基準は変化しています。
壁断熱厚さは、1970年(昭和45年)では100㎜、1980年(昭和55年)170㎜、1990年(平成2年)270㎜に成っています。
この様に、スウェーデンでは省エネ基準が。時代背景により強化され現在に至っています。
写真は、2003年スウェーデン視察の際の、建築状況です。
170㎜の壁厚さに対し、比重の重いロックウール断熱材が入れられていました。
更に、別な現場では、170㎜の壁の内外に50㎜付加断熱を行い、壁断熱270㎜の実践を確認しました。
正しく、スウェーデンでは、現在壁断熱厚さ270㎜で行われているのです。
一方我が国は、強制力も無く、建て主の判断基準とされている次世代省エネ基準の最高レベル、北海道のⅠ地区基準でも、壁断熱厚さは130㎜程度です。
実に、スウェーデンの壁断熱建築基準値270㎜の半分の厚さなのです。
写真は、スウェーデンから、住宅を輸入し販売している会社のパンフレットです。
記載には、スウェーデンハウスの壁断熱140㎜厚さは、スウェーデンのバケーションハウスである、サマーハウス仕様である事が書かれています。
先のルンド大学のレクチュアから判断すると、事実だと思います。
北海道でも建てられている住宅が、スウェーデンの夏場だけに使用する、一時滞在住宅の仕様とは呆れるばかりです。
これも、次世代省エネ基準の功罪で、余りにも脆弱な断熱基準設定に対するメーカーの普通の対応です。
また、このパンフレットの会社、ロイヤルフォートスウェーデン社も、170㎜の断熱基準です。
170㎜は、スウェーデンの1980年代の仕様です。
本州地区での販売仕様には良いと思いますが、北海道への進出の際は、270㎜まで断熱仕様を向上させてからお願いしたいものです。
この様に、次世代省エネルギー基準は、多くの功罪をもたらしながら、現在も省エネ基準の最高峰として生き続けています。
国の示した基準には、業界は順応し、消費者は信じます。
その責任は大きいのです。
次世代省エネ基準値の見直しと、その基準値には強制力のあるモノとして頂きたいものです。
スウェーデンと日本、同じ石油輸入国ですが、この国の指針の違いはどこから起きるのでしょか。
改めて、その違いの大きさに考えさせられます。
次回は、5の題『スウェーデンの無暖房住宅』を記します。