今回は、2.EU諸国のパッシブハウスと、3.熱移動とスウェーデン・ドイツの建築物理学、に付いて記します。
この写真は、EU諸国のパッシブハウスを、国ごとに掲載したものです。
各国が、パッシブハウスに取組んでいることが分かります。
更に、EU(ヨーロッパ諸国連合)に成ったため、連係が強化され情報の共有などで、パッシブ化が加速される結果に繋がっています。
この表は、ドイツに措ける省エネ住宅の、性能の年度推移です。
1982年(昭和57年)ソーラーハウスが出来ました。150kwr/㎡・a
1987年(昭和62年)低エネルギーハウス。 70kwr/㎡・a
1992年(平成4年)超低エネルギーハウス。20kwr/㎡・a
1998年(平成10年)無暖房住宅。0kwr/㎡・aへと推移しています。
この成果に伴い、ドイツ国内の省エネ基準も強化され、国全体のレベルを上げる事に成りました。
最近では、プラスエネルギーハウスが造られています。
住宅の余った電力等を、売電するのです。
日本での、ソーラー発電による売電とは、異なるものです。
何故ならば、日本の場合は、住宅内の暖冷房は別にしての売電です。
しかし、ドイツのプラスエネルギーハウスは、他のエネルギーが0の状態を造ってからの売電です。
売電のプロセスが大きく異なっています。
この絵は、スウェーデンの断熱メーカーのパンフレットに載っていた住宅内から逃げるエネルギーの、部位別量を表したものです。
毎日、住宅の各部位からは、熱がどんどん逃げて行きます。
これは、ドイツのフランフォーファー建築物理研究所の日本人研究者である、田中絵梨研究員が書いた
記事です。
この記事によると、ソーラーシステム等を駆使した省エネルギー効果と、建物部位の熱橋を最小限にした工法の省エネルギー効果は、ほぼ同等で有ったと書かれています。
下手な、アクティブ化をした建物を造るよりも、地道な熱橋対策を施した方が、経済的にも効果的にも有利である事が分かります。
日本では、何々工法とか裏付けの無い設備機器の氾濫が見受けられますが、断熱と熱橋対策が重要である事を、認識する必要が有ります。
この写真は、スウェーデンのルンド大学でのレクチャースライドです。
左の写真は、外断熱(上)と内断熱(下)の熱シュミレーションです。
ご覧の様に、外断熱では熱移動が無いの対し、内断熱では熱移動がある事が分かります。
日本に措けるRC造は、殆んどが内断熱です。
内断熱では、熱橋を防ぐ事が出来ない事が、明らかなのです。
右の写真は、スウェーデンのRC造建物の、本体部とバルコニーの継ぎ目にある断熱材です。
この様に、バルコニーは、断熱材で縁切りされ、熱橋対策を施しています。
日本の建物では、この様な処置はしていません。
内断熱と熱橋対策の無い建物は、躯体の劣化を早め、内部結露を誘発し室内環境を悪化させています。
これは、建築物理学が学問として確立していない日本で、その解明が曖昧な状態のまま、その結論を先延ばししている事が原因です。
EU諸国では結論付けた事柄も、日本では未だに後追いしている状態なのです。
この写真は、ドイツのフランフォーファー建築物理研究所が開発し、EU諸国を始め欧米でも使われているヴーフィーと言う熱湿気移動同時解析ソフトの一部です。
このソフトも、フランフォーファー建築物理研究所の長い間の研究データ蓄積とそのノウハウから出来たものです。
これにより、長期間の実験や施設の必要性が無くなり、机上で各地の気象条件下、床、壁、天井、屋根の内部状況を確認する事が出来ます。
こうしたソフト開発を始め、フランフォーファー建築物理研究所は建築分野に多大な功績を即しています。
ドイツのフランフォーファー建築物理研究所の、実験施設と実験の様子です。
写真左は、スウェーデンのルンド大学、建築物理学の第一人者である、アーネ・エルムロート博士です。
スウェーデンに措いても、建築物理学は学問として長く貢献しています。
右は、スウェーデンのヨーテボリ市にある、チャルマシュ工科大学の建築物理学者です。
スウェーデンでは、設計者、構造担当、建築物理担当の様に分業化され、その分野のエキスパートが活躍しています。
日本の建築分野も、建築物理学を独立させて、その必要性を認識しない限り、建物内環境の改善は図られないと考えます。
次回は、4の題『スウェーデンの住宅と日本の住宅の現状(何が違うのか)』を記します。