住宅展示場(7)
2006.04.25 Tuesday
住宅展示場(7)です。
スウェーデンの、住宅展示場のまとめです。
モデルハウスの内外部と、掲示されていたスウェーデンの住宅価格に付いて、紹介してきました。
掲示されていた価格は、日本円坪換算にして60万円台でした。
私は、現地のモデルハウスを見て、この価格であれば十分納得できる、むしろ低価格ではないかと思いました。
スウェーデンの、一般的サラリーマン所得や税制面の違いが有り一概には言えないと思いますが、以下に述べる内容において、価格とのバランスは充分取れていると考えるからです。
まず、寒冷地住宅に措いて、最も重要な防寒対策が十分なされた住宅である事が上げられます。
構造主軸170㎜×45㎜中に、高密度なミネラルウール(繊維系断熱材)が入れられ、更に内に50㎜の断熱補強がされた220㎜の断熱仕様です。
(2003年スウェーデンのルンド大学でのレクチュアでは、1990年以降スウェーデン国内の住宅に措ける壁の断熱厚さは、270㎜と聞いていました。しかし、この展示ハウスでは220㎜でした。価格帯により断熱仕様を変えている様です。)
展示ハウス内の断熱模型(170㎜+50㎜=220㎜厚ある。)
この220㎜の断熱厚さは、日本における次世代省エネ基準で一番レベルの高い北海道Ⅰ地区で140㎜位ですから、その約1.5倍の断熱厚さです。
スウェーデンのヨーテボリ市では、4月20日頃には桜が咲いています。
北海道の函館では、桜の咲くのは5月のゴールデンウイークあたりです。
当然、北海道の北に位置する地域では、半月以上桜の咲くのは後です。
ヨーテボリ市内に咲く桜(2005年4月視察)
単純な比較に成りますが、気候条件の厳しい北海道の次世代省エネ基準値の1.5倍の断熱材が、スウェーデンの住宅で使われているのです。
スウェーデンの住宅が如何に、北海道の住宅よりも断熱的にレベルが高いか分かります。
更に窓は、気密性と断熱性が良い樹脂サッシか木製サッシに、トリプルガラス入りです。
樹脂製窓のトリプルガラス
北海道も標準化された樹脂サッシですが、スウェーデンの樹脂サッシは、気密性が良く、サッシ部材が丈夫に出来ている様に見受けられました。
そして、ガラスの仕様がトリプルのLOW-Eなのですから、ペアガラスのLOW-Eが一般的な北海道はいかにも貧弱です。
玄関ドアは、木製の断熱ドアです。
このドアに付いては、北海道の住宅でも最近使われていますが、半数はまだアルミ製の断熱ドアで、木製断熱ドアのスタンダード化には成っていません。
更にスウェーデンでは、勝手口(裏口)のドアも玄関と同じ木製の断熱ドアを使っています。
裏口の木製断熱ドア
スウェーデンでは、外郭を保護する開口部の徹底した断熱+気密に、コストを掛けています。
これだけの、仕様の住宅は北海道には有りません。
また、ハウスメーカーでは考えもしない断熱仕様レベルでしょう。
スウェーデンの換気は、まだ第三種換気が一般的な様ですが、吸気口を暖房パネルの裏に設置したり、窓枠のスリット式にしたりして、外気導入が直接室内にいる人に感じさせない様工夫しています。
窓枠に付いている換気口(2003年スウェーデン工事現場視察)
また、『無暖房住宅』でも触れましたが、高性能な熱交換換気扇が市場にあり、希望すればそれを導入出来る状況です。
それは、消費者各人の求めるレベルの持ち家が手に入る状況が、スウェーデンには有ると言う大きな違いでも有ります。
つまり、施主の予算によりローレベルからハイレベルの持ち家が有り、その選択範囲が日本の住宅の現状よりも、高い位置であると言う事です。
具体例をもう少し上げます。
スウェーデンの木造住宅は、枠組み工法で行われています。
その軸(スタッド)は170㎜×45㎜あり、日本のツーバイフォー工法の床や屋根に使用する、2×8(38㎜×184㎜)より幅が少し小さいですが、厚みが45㎜あり38㎜の約1.2倍近く有ります。
木造住宅工事現場での壁パネル材加工(スタッド軸材は、170㎜×45㎜サイズ)
欧米の枠組み材は、厚みが38mmで構造用合板の貼り合わせ部では、片方の合板が19㎜弱の掛り代で、CN釘を打つには余程丁寧に打たなければ枠材から飛び出てしまいます。
しかし、45㎜の厚みがあると、その心配が減ります。
木造住宅の工事現場で、パネル状に作られた壁材
枠組み工法に措いて、構造的に重要な構造用合板の釘が確りと、構造軸組みに留まります。
スタッド間隔は、450㎜~500㎜と日本と殆んど同じです。
基礎は土間床か地下室を造る方式で有る為、日本の住宅に多い床下空間方式よりも、熱損失が少なくなります。
スウェーデンは、地盤が岩盤質で積雪も少ない国の為、土間床の利点を活用しています。
その土間床は、断熱材で下面も側面もスッポリと覆われます。
スウェーデンの一般的基礎工事(白い部分は、断熱材のEPS材)
ですから、床からの熱損失や熱橋対策に、失敗が有りません。
どこの施工会社の住宅を購入しても、消費者に取って当たり外れ(住宅性能の差)が無いのです。
その様にして、断熱材で包まれた床に、床暖房を設備する家が最近は多い様です。
その、床暖房の温水は低温度です。
それで、十分な暖房となる、性能の良い住宅がスウェーデンの住宅です。
屋根面の断熱も密度の高い繊維系断熱材や、状況によってはブローイング系の断熱材も使われています。
屋根断熱の様子(ヨーテボリ市近郊の住宅建設)
屋根は、瓦屋根葺きが殆んどです。
以上述べた様に、寒冷地に必要とされる住宅を研究開発してきたスウェーデンでは、どの家造りでもある程度の寒冷地技術レベルに出来上がり、そのレベルが北海道の現状住宅よりも数段高い形で、市場供給されていると言う、大変羨ましい現実が有ります。
現地を見てきて、もう1つ触れなくては成らない事が有ります。
日本の企業がスウェーデンから輸入した住宅が、日本国内で販売される時、その仕様が大きく変化する事です。
先程述べた様に、スウェーデンの構造部材寸法は、170㎜×45㎜で、その壁の中に170㎜厚の、ミネラルウール(繊維系)断熱材が入れられています。
更に、その壁の内外側に、50㎜の付加断熱材が入れられ、270㎜の断熱仕様と成っているのです。
(このページの展示場ハウスは、220㎜です。)
下の写真は、ヨーテボリ市郊外の住宅建設、270㎜の断熱仕様例です。
外壁に貼られているのは、EPS50㎜の湿式仕上げ用断熱材です。
内側に、170㎜+50㎜=220㎜のミネラルウール(繊維系断熱材)で、合計270㎜断熱です。
しかし日本国内で、スウェーデン○○○とかのブランドハウスでは、その様な断熱仕様は有りません。
勿論、そのブランドハウスは、北海道内販売に措いても壁断熱が270㎜はおろか、220㎜でも販売されていません。
何故、日本用にアレンジするのでしょうか?
何故、断熱仕様は変えられたのでしょか?
また、それだけの断熱は必要ないのでしょうか?
私が、ホームページで紹介している様なスウェーデンの現状を、ブランドハウス会社は知らない事は無いと思います。
ブランドハウス会社の知る情報は、私達の自費で重ねた視察程度の、スウェーデン情報ではないと思います。
今、話題の映画、『不都合な真実』の様に、誰かの不都合が有り、この真実が明かされないまま、消費者はそれらを購入しているのです。
先程の桜開花時期の話の様に、北海道よりも暖かいスウェーデン南部地区の断熱仕様が、北海道の断熱仕様の約2倍である事実を考えると、日本の断熱基準が?であり、ハウスメーカーが物造りをする立場で、その事実を抹消して消費者に提供するのは、アンフェアーではないかと考えます。
その国の名前を商標とするのであれば、その国の真実の情報や、その変更に付いて説明責任が有ると考えます。
況してや、各種の大臣賞まで頂いているのでは、消費者は疑う術を無くします。
全ての住宅を無暖房住宅にする事は難しくても、次世代断熱基準以上の性能を有する住宅造りが、今後の主流に成ります。
スウェーデンの住宅造りで蓄積された日本に無い真実を、日本の現状にレベルダウンさせる理由は、消費者に取って良い事だとは思えません。
その要求を奪う事、または、その内容を見えなくする事は、企業の身勝手に見えます。
こうして出来たレベル差が、住いだけが先進各国から遅れを取る現実として現れています。
この違いを消費者が意識しなければ、快適で耐用年数が長く省エネルギーな住宅は、日本では供給されないでしょう。
消費者がそれを望まない限り、供給側は小手先のデコレーションハウスを造り続けるでしょう。
日本に措ける最大の無駄遣いは、住いの造り方に有ると言えます。
省エネ、高耐久な住い造りは、これからの時代には不可欠です。
私は、そう考えています。