【札幌講演】
札幌セミナー(札幌市コンベンションセンター)
2005年3月2日(水)
私は、自宅からマイカーで、講演会場の札幌市コンベンションセンターに向かった。
札幌講演がハンス・エーク氏最後の日本講演になる。
来日して11日目、国内の3都市(長野・東京・京都)を廻り、無暖房住宅の講演を行ってきた。
今回の札幌講演は、他の3都市と異なり、建物の断熱・気密無しには、生活が成り立たない地域である。
日本で一番、断熱・気密を必要とする地で、無暖房住宅の講演を、設計者本人から聞ける意義は大きい。
スウェーデンと北海道の、断熱・気密の関する実態の差を、地元の人達に感じ取ってもらえば良いのだが。
会場は、予想よりも盛況だった。
札幌講演開催は、講演スケジュールで最後に決まった開催地のため、準備時間が少なく入場人員の把握が出来なかった。
しかし、『無暖房住宅』の言葉のインパクトと、『外断熱』、『高断熱』の流れとの相乗効果で、ここまでの入場者があったと思われる。
講演が開会された。
最初に、堀内外断熱推進会議事務局長が、『ハンス・エーク無暖房住宅と、日本における外断熱の現状』と題し、今回のハンス・エーク氏日本講演の意義と、北海道内にもっと外断熱の建物を増やす事の重要性を話した。
次に、講演1として、荒谷 登 :北海道建築技術協会会長が、『断熱から生まれるライフスタイル』と題し講演を行った。
荒谷 登 北海道建築技術協会会長は、
①断熱は、小さなエネルギーで穏やかな環境づくりができる。
高断熱が進むと、採暖→暖房→再利用熱暖房に変わり、冷暴→冷房→冷忘となる。
②断熱は、物が持っている特質を引き出す役目をする。
高断熱は、そよ風、熱対流換気などが利用できる。
これは、省→生エネルギーとも呼べる。
など、言葉でも文字でも解りやすい表現で、高断熱の意義を話された。
続いて、講演2 ハンス・エーク:(通訳:友子 ハンソン)『地球環境と無暖房住宅~エネルギーを使わない暮らし』と続いた。
(講演内容重複のため省略)
休憩を挟み、
石田 秀樹(北海道東海大学芸術工学部教授)の司会で、『北方圏の暮らしを考える』と題して討論会が行われた。
冒頭、石田教授は、ご自身の自宅設計を披露し、高断熱とパッシブ換気による住み心地の良さで、アレルギー体質のご家族に大変満足いく結果が出た事を話された。
しかし、『壁300mm、屋根400㎜の断熱厚さも無暖房住宅の断熱厚さには負けました』と話し、会場の笑いを誘った。
次に、問題提起として、友子・ハンソンさん『住いを大切にすること~スウェーデン人の考え方』(講演内容重複のため省略)が、スウェーデンでの実例を紹介し、藤本 哲哉(北海道地域計画建築研究所所長)が、『外断熱建築設計の実際』と題して自身の設計を、実例で講演した。
その後、会場質疑を行った。
以下質疑と回答。
Q:ハンス・エーク氏に、日本公演期間中に見た日本の建物の印象は?
A:日本の建物は気密が悪い。
ホテルもそうだが、他の建物も断熱が徹底していないので、居心地が悪かった。
床と天井の温度差が大きく、床が冷たい建物が多かった。
パワーによる暖房方式で、暖房が効きすぎ不快感が有った。
しかし、東京で見学したマンションは、私の考え通りの施工をしていた。
日本にも良い建物が、出来つつあると思った。
Q:ハンス・エーク氏に内断熱をどう評価するか、無暖房住宅は北海道でも可能か?
A:ヒートブリッジができる、内断熱建物を造る事は無駄な行為だと思う。
無暖房住宅は札幌でも充分可能だ。
堀内事務局長も、北海道での無暖房住宅建設は、『窓、換気装置を組合せで初めて可能』と答えた。
今開場の質疑でも、無暖房住宅の断熱厚さと、地元の建物に措ける現状での断熱厚さの違いが大きく、断熱厚さで、無暖房住宅の建設コストへの影響とを絡めるため、ポイントを絞り切れない感じがあった。
ただ少なくとも、無暖房住宅が実在し、スウェーデンでは19世帯がそこで快適に生活している現実を知り、日本の次世代省エネ基準が如何に低レベルの基準であるかを、会場の人達は感じる事が出来ただろう。
しかし、札幌市よりも平均気温の高いスウェーデン南部地域で、無暖房住宅ほどではないにしろ、真の高断熱・高気密を生活に取り入れ、快適な居住環境を得ている人々と、それを知らない北海道民に今後どの様に情報提供していけるか?
北海道の住環境は、スウェーデンと比べ今後も低いままなのか。
それは、我々業界人の肩に掛かっている事を強く感じた。
ハンス・エーク氏の日本講演が、札幌講演を最後に無事終了した。
夕食を兼ねた打ち上げを、ススキの寿司店で行った。
堀内事務局長より、ハンス・エーク氏に労いの言葉があり、氏も、無事全講演を終えた安堵の顔があった。
そして、ハンス・エーク氏は、今回の講演スケジュールが大変ハードであった事を話ながら、スウェーデンでの仕事が忙しく、今回の様な講演旅行はしばらく出来ないだろうと話した。
つまり、今回の講演を聞けた人達は、大変幸運だった事になる。
食事をしながら、スウェーデン人の考え方や、物事の取り組み方についての話題になった。
Q:スウェーデン人の物を造る事への考えについて質問すると、ハンス・エーク氏は次のように語った。
しっかりした基礎的な分野を開発し、頑丈な物を造る。
簡単に壊れない、落しても壊れない、そんな頑丈さが必要だ。
でもそれは、簡単な事ではないし、高度で精練された技術がいる。
それは、スウェーデン人のフィロソフィ(哲学)が有って出来る事だろう。
Q:次に、無暖房住宅の計画から実行までについて話してくれた。
無暖房住宅は、計画段階に多くの時間を掛けた。
熱ロスを最小限にし、エネルギー使用も最小にすること。
無暖房住宅を造ることは、刃物の先に卵を載せるようなものだ。
すごく大きなチャレンジだった。
イエテボリの最低気温-16℃で、熱を加えなくても良い住宅を目指した。
その後に行われる予定の、大量の無暖房住宅建設を前提にしたので、今の技術と市販されている資材で造る事も前提だった。
難しい技術や、特殊な物を使う、無暖房住宅では今度普及しない。
現場責任者も早い段階から加わり、私が現場員の教育を行った。
職人達にも、この計画は画期的なもので、データ等も取られる建物と言う自覚を持たせた。
その結果、気密目標値は、スウェーデン基準の4倍~5倍の数値が出た。
Q:日本のエネルギー対策をどの様に見たか。
現状の日本は、エネルギーの90%を輸入に頼っている。
日本は、エネルギー消費を減らせば、輸入も減ることを自覚すべきだ。
しかし、現状の日本は、極楽が永遠に続くが如く、毎日を今日が世界の最後の日の様に楽しんでいる。
現状のエネルギーコストが、将来も続く事が無い現実を認識すべきだ。
統計では石油は、あと35年しかもたない。
中国やインドの人々が、ライフスタイルを現在の日本と同じにすれば、たちまち石油は減り10年位で枯渇するだろう。
スウェーデン人と日本人に、物事に対する判断力に、大きな違いがあるとは思わない。
今、日本がエネルギー政策を考え直さなければ、大変な事になる。
キャンペーンをして、省エネルギーを呼びかけるべきだ。
スウェーデンでも、ゴミをゴミ箱へのキャンペーンを3年間行い、成果を出した。
建物を外断熱化し、換気も熱交換換気扇を使えば、更にエネルギーを減らせる。
また、改修工事が増え、新たな産業も生まれる。
断熱の根本は、熱の遮断なのだから、北国でも南国でも有効に使える。
ドイツでは、パッシブハウスには、ローンの貸付金利を安くし、更にローン期間を30年から35年に延ばす、優遇処置を取っている。
国の政策として、省エネルギー対策を早急に行わないと、日本は取り残される。
優秀な製品を世界に輸出出来る日本で、何故建物が内断熱のままなのか。
外断熱は、世界の常識でありその効果は、日本の専門家が知りえてる事実だ。
この気候の厳しい北海道で、その気運が芽生えない事は、不思議でならない。
この様に、日本の取り組み方のヒントと苦言を話す、ハンス・エーク氏の言葉に皆うなづくばかりだ。
Q:スウェーデンの木造住宅の耐用年数の考え方はどの位か?
ローンは40年で組めるが、途中で住み替えて、ローンも組み替えるのが多いパターンだ。
建物のメンテナンスは、
外壁のペンキ塗り 10年
家電品(冷蔵庫、冷凍庫) 20年
給排水管 40年
トイレの便座 20年
窓の取替え 40年
屋根の取替え 40年
が目安に成っていて、その他に部分的なメンテナンスを施し、建物は壊れるまで使う考えだ。
一つ一つの答えが、現在の日本と比べるとあまりにも違いすぎて、遠い事の様に思える。
しかし、それを知る事で次の方向が見え、取り組み方も分かってくる。
背中を押される思いではあるが、日本が行うべき事が今回の講演を通してはっきりしてきたと思う。
16.ハンス・エーク氏遠い地でのひな祭りに続く。