2005年2月23日(水)
ハンス・エーク日本講演第一回会場、長野市(会場:長野市メルパルク長野)
休憩の後、パネルディスカッションに移った。
出席者は、
ハンス・エーク氏(無暖房住宅設計者)
友子 ハンソン氏(作家・スウェーデン在住)
山下 恭弘 氏 (信州大学工学部教授)
茅野 實 氏 ((社)長野県環境保全協会会長)
堀内 正純 氏 (NPO外断熱推進会議事務局長)
です。
最初に、(友子・ハンソン)が基調講演しました。
友子・ハンソンさんの経歴を紹介します。
外国商社の秘書を経て、結婚後、1983年よりスウェーデン・ヨーテボリ市に在住。
翻訳、通訳のフリーランサーに加え、社会福祉や市の公共関係に詳しく作家としても活躍です。
ヨーテボリ市公認ガイド
著書・翻訳には、
「お母さんが子どもになった」(訳 講談社)
「欧米の介護現場」(共著 一橋出版)
「スウェーデンからの報告」(共著 訳 筒井書房)
「私にもできる」(訳 萌文社)
「今、なぜ痴呆症にグループホームか」(共著 訳 筒井書房)
をはじめ、多数にのぼります。
基調講演内容は、
ヨーテボリ市の紹介の後と、スウェーデン人が人生で大切にするものは、①家、②バカンス、③車の、順番であること。
有限の資源(石油など)は、今後埋蔵量が少なくなるにつれ値段が高騰して、スウェーデン国人口の1/3位の特権階級しか買えなくなることを、スウェーデン人は認識している事。
私達は、現在の資源を子孫に引き継ぐキーパーソンにすぎない事。
を話した。
友子さんの話を聞きながら私は思いました。
私はスウエーデンを一口に言い表せば、『大人の国』と表現できるのではないかと思っています。
スウェーデンを訪問し、税制の大きな国民負担の中で、公正さを形作り、社会保障の充実やグローバルな物の考え方、そしてそれが物造りに実践的に生かされている事を、目の当たりにしていたからです。
友子さんの講演には、それが至る所で表現されていました。
今回のハンス・エーク氏の『無暖房住宅』は、そのスウェーデン国のDNAが有ってこそ実現出来た事であり、それを理解しなければ、日本では途方も無い事と言われ、扱われるのではと危惧する考えも過りました。
続いて、(山下恭弘教授)は、
海外視察の経験から、EU諸国の取り組み、取分け外断熱で150㎜厚の断熱材使用は事実なのです。
今、日本は住宅の転換期であると考えます。
循環型社会にあった住宅造りをして、外断熱の有効性を考え、無暖房住宅のできる現実を直視すべきです。
と話した。
私は、この言葉は、北海道で聴きたいと思いました。
北海道の住宅が一向に向上しないのは、こうした言動が身の回りに殆んど存在しない事にあると思います。
現在の、北海道住宅は、本州デザインの見せ掛け寒冷地住宅です。
何故ならば、北海道よりも気象条件が良い、スウェーデン南部でも壁断熱厚さは、270㎜断熱です。
然るに、北海道では、未だに100㎜~140㎜の壁断熱が主流で、高断熱を謳い消費者を欺いています。
何故、住宅の寿命が短く、室内環境が良好でない住宅が今日も建てられ続けるのか、それを思うと虚しく成り、スウェーデン国との差をまた感じるのです。
続いて、(茅野 實会長)は、
どうせ建てるなら、良い建物を造ってほしい。
銀行も外断熱建物には、優遇貸し出しを行うべきだ。
省エネ効果、温室効果ガスの減少に外断熱は有効であることを認識した。
と話した。
(堀内 正純事務局長)は、
外断熱の名前ばかりが先行してはならない。
また、過去にあった外断熱ブームを繰り返してはならない。
しっかりとした、断熱材厚と高性能な窓などを含めた総合的な外断熱を行ってほしい。
と、真の外断熱工法をと訴えた。
(ハンス・エーク氏)は、
こちらの家の屋根には、煙突(換気排気用煙突のこと)がなぜ無いのか。
換気方式も気になる。
たぶん現在の長野県内の家は、冬の快適な室内温度確保には、大きなエネルギーが必要だろう。
夏もエアコンで、大きなエネルギーが必要だろう。
いま住んでいる家を、高断熱改修しても、10~15年で元が取れる。
それにも況して、結果的に室内気候が良くなり、快適になり、健康的になるのだ。
それは、お金で買えないものだと私は考える。
(山下恭弘 教授)は、
過去の外断熱の歴史は、負の歴史だ。
これからは、改める必要があると考える。
造る側が、今まで試みてきた内断熱から外断熱への転換説明が付かないのか?切り替えが遅い。
エネルギーロスが許されない時代に入り断熱改修などが必要だ。
(茅野 實 会長)は、
24時間営業のスーパーやコンビニについても、人間は夜寝るものであり、私は必要性を疑問視する。
自動販売機1台と、一件の家屋の消費する電力が同じことを皆さんは知っていますか?
(山下恭弘 教授)は、
木造は27~28年で、鉄筋コンクリートは35~40年で壊されていることは、許されないことだ。
以上のような意見が出された。
続いて、会場への質疑応答に入りました。
① 無暖房住宅の内部温度と湿度ははどの位か?
回答:ハンス・エーク氏
22~23℃で推移している。湿度は冬場20~30%、夏場50~70%位だ。
②無暖房住宅述べ床120㎡の換気量は?
回答:ハンス・エーク氏
0.5回/hです。これは、スウェーデンの建築基準です。
③建築コストにそれだけ投資して、回収には何年もかかるのでは?
回答:ハンス・エーク氏
貴方は、現在のエネルギーコストが未来も同じと考えるのか。例えば、アジアの人々が日本と同じ生活をすると、石油はたちまち不足する。
快適性は値段では試算できない。スウェーデンで調査したところ、普通の壁断熱厚さ270㎜とパッシブソーラーハウス断熱厚さ430㎜の住宅建設コストは、パッシブソーラーハウスの方が、20%安くなった。
これは、エアコンや暖房装置などが不要なため、普通の住宅より結果安く成ったのだ。無暖房住宅が高くなることは無い。
④私は軽井沢で、住宅の測定をしているが、信州の断熱材は何が相応しいか?
回答:ハンス・エーク氏
信州の状況がわからないので、答えられないが、無暖房住宅は無人で+14℃以下には下がらなかった。ただし、冷蔵庫と熱交換換気扇は可動していた。
熱交換換気扇も止めた状態では、+10℃だ。
無暖房住宅の断熱材は、ミネラルウール、EPS、グラスファイバー、木屑と紙を砕いた断熱材などを併 用した。
最後に各パネリストより、
(山下 恭弘 教授):次世代省エネ基準で満足することなくより高い省エネが必要です。普及すればコストも下がる、広めて行きましょう。
(ハンス・エーク氏):皆さん、イエテボリに来て無暖房住宅を実際に見てください。次に長野を訪れた時は無暖房住宅が完成していて、是非そこに宿泊したい。
(友子・ハンソンさん):生活の質が高い人生がいかに快適か、金額に換算出来ないと思います。質の悪い物は買わない、良い物を求めることが必要です。
(堀内 正純事務局長):会場いっぱいの皆さんの熱気で、長野に高断熱住宅や外断熱が広まることを、期待します。
大きな拍手がおこり、長野講演は大成功に終わった。
会場から徒歩で長野駅に向かい、東京行きのあさまに乗る。
関係者全員には、第1回目の講演終了とその成功で、安堵感が漂う。
車内で軽食を取り、東京まで休息を取った。
東京駅に着き、友子さんと別れ後、猛者連はいざ祝宴に向かう事になった。
東京駅地下街にある、ミンミンなる猛者行着けの中華風居酒屋へ入った。
狭い店内の一テーブルを陣取り、私以外は紹興酒で乾杯だ。
私はウーロン茶を美味しくいただいた。
ハンス・エーク氏に、中華料理を皆で説明しながら、美味しくいただいた。
日本語を英語とスウェーデン語に訳した旅行用絵付き会話ブックをハンス氏に見せた。
この本は堀内事務局長が、ハンス氏と同行する私に用意してくれた本だが、ハンス・エーク氏はいたく気に入った様子なので進呈した。
ハンス・エーク氏は、その本を開き、その中の一文を指差した。
よく見ると『お疲れ様でした。』と日本語訳にある。
来日して時差ボケの翌日に、すぐに長野へ移動し講演を終えて一番疲れているはずのハンス・エーク氏から労いの言葉をかけられ(指差され)、ハンス氏の優しさに触れた全員はいたく感動しました。
明日からの講演に望む気力が湧いてきた感じです。
乾杯の声が何回も上がりました。
9.『東京公演』その(1)に続く。